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少女は優越感に浸った表情で、小さな手を差し伸べてくる。見上げながら。
「まだ足りない? じゃあ世界中から名医を集めるわよ。そしたら助かる可能性は大幅に高まる。どう、悪い条件じゃないでしょ。どうするの? やるかやらないか」
「……少し、考えさせてくれるか?」
「どうぞご勝手に」
博二の為とは言え、あいつが入院している原因は実は俺だ。
俺が守ってやらなかったから、俺がもっと確りしていたら博二は今頃普通に、元気に生活出来ていた筈なのに、己の無力さの所為で現在も寝たきりなのだ。
意識は無く、医者は意識が戻る可能性はかなり薄いと言う。医者がそう言うならそうなのだろう。
しかしそれでも俺達家族は、いつか博二が目覚める事を信じて今まで莫大なお金を払い続けている。
従って市東家は常に火の車で、そんな中1人暮らしをする俺は親不孝者な訳で。
チラリと少女を見る。
少女の面持ちは、如何にも余裕綽々としていた。まるでこちらの行動が先読みされているかの様に。
「どう? やる? やらない?」
「嘘だったら承知しねぇからな」
「3回目ね」
「……はっ! 博二の為だ。やってやろうじゃねえか! その執事とやらを」
俺がちょっと苦労するだけで家計が、何より博二が助かる可能性が増える。それに比べたら条件を呑むというのは軽いもんだ。
少女はフフンと鼻で笑い、俺の手を握った。
「決まりね。付いてきて」
***
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