何故俺は……

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別離、邂逅、再起の季節――青春。 熱気、活気、躍動の季節――朱夏。 哀愁、秀麗、均衡の季節――白秋。 厳戒、停滞、散逸の季節――玄冬。 そんな四季の始点、つまり春に俺達は出逢った。 4月。桜の花弁は風雨の容赦無い攻撃により既に地面に落ち、枝に僅かに残るそれらも冷たい空気の残る中、わざわざ舞ってくれる気は流石に失せている様だ。 桜は散る時が最も美しい……か。生憎俺はその現場を見逃した。思い返せば、俺は桜の花弁が散る瞬間ってのを感慨深く眺めた事が無かった。 見苦しい思いに浸り、ある大豪邸の庭を1人歩きながら沁々と、改めてこう偲ぶ。 ――ああ、何故俺は執事をやっているのだろう、と。
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