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ずっと努力してきた。勉強も運動もそこそこできるようにしたし、言いつけもきっちり守った。
家の手伝いもした。父が好きだったから、教えてくれている間は珍しく優しかったから囲碁も一生懸命覚えた。
髪も長くしなかったし、なるべくこざっぱりとした格好をするように心がけた。
それでも、駄目らしかった。そして決定的な大喧嘩をする。
些細な事が怒鳴り合いに転じ、その内父は本音をぶちまけちる。今まで何とか隠してきたくせに、本当は息子が欲しかった!と。
本当はもクソもずっと私は知ってた!怒鳴り返して部屋に引きこもった。
感情のままに怒鳴りあったお陰か、顔は涙でぐちゃぐちゃで、服も皺だらけだった。
着替えようと服を脱ぎ捨てた。そのままそれで顔を拭く。部屋の隅の姿見に、己の姿が映っていた。
短い髪。ガリガリで、女らしい丸みがまるで無い体。
好かれるようにと努力して、結局報われなかった入れ物。
姿見の前に立って、その表面を撫でた。
呆けた面の情けない女がこちらを見つめていた。
その瞬間、痛切に思った。
「その瞬間さ、痛切に思ったんだ。ああ、このままじゃ私は生きていけないって。早く変えてしまわなきゃ潰れてしまうって。だから、胸を入れた」
パチン、と先輩の石が盤に置かれた。その位置を見て僕は小さく嘆息した。
「ありません。参りました、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
深々とお辞儀をしあう。
僕の負けは間違えようも無かったが、一応お互いの石を並べ枡目を数えていく。
「ちょっと、解る気がします」
「そっか……馬鹿じゃね?と笑われるかと思った」
持ち石を整列させながらそう言うと、先輩はどこか安心したような表情を浮かべた。
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