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「好きになって貰えないなら諦めようと思ったんだ。じゃあいっそトコトン女になってやれって。だから凄く安直だけど、胸を入れた。安直にしては至極金も使ったし親にも泣かれたし」
「でもそうしなきゃ、自分を変えなきゃ生きていけないって、先輩は思ったわけでしょ?じゃあ僕はそれで正しいんだと思います」
「そっか……ありがとう。あ~なんか一気に吐き出したらすっきりした!変な話しちゃってゴメンな曽根川」
「いいえ」と僕は首を振って。おずおずと切り出した。
酷く失礼だし叱られるかもしれない、と思いつつ。
「変なお願いしても良いですか、先輩?」
「うん?」
「さ、触ってみても良いですか、胸」
先輩は目を丸くして、次の瞬間爆笑した。この人がこんなに笑うのを、僕は初めて見た。
「曽根川は変なとこあるなぁ。良いよ。だけど見せてってのは勘弁してな、まだガーゼに血が滲んでたりして結構グロいんだ」
了解を得て、服の上からおずおずと触ってみる。
思ったより弾力が有って、柔らかい。術後の傷も完治していないだろうから、静かに撫でるだけ。
「この胸は先輩の勲章ですよね」
「そんなカッコ良いものかなぁ?早速クラスメイトからアレコレ言われちゃったし」
「カッコ良いですよ。整形が悪いなんて、親のくれた身体が、なんて下らない事言うヤツなんて、無視すれば良いんです。生き易いように自分で自分が好きになれるように体の形を変えるのは、むしろ普通の事だし普通になるべきです」
手の下の膨らみ。
僅かに規則的なリズムを感じた、先輩の心音だ。
先輩の心臓の上に眠る水。これはきっと彼女が自分で選んだ、世界から身を守る盾なのだと思う。
どんなに憤りを感じても、不快に思っても、努力しても。
世界は変わらないのだ。変えられない物がある。
それらに上手く順応できるように戦えるように。
彼女は体の形を変えたのだ。自分が好きになれるように、変われるように。自分を変えることの、何が悪いというのか。
僕が胸の側面を軽く押して素敵な弾力を感じたのと、部室の扉が開くのは同時だった。
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