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僕の通う学校は、制服私服を自由に選べる校風だ。
夏場は着回しが面倒だからという理由で、カッターシャツやセーラー服の人口も多いが、流石に冬の盛りともなると私服派が圧倒的に増える。特に女子。
プリーツスカートって奴は、どうしても防寒対策には適していない。
そして僕にも適していない。
校舎に入り、首に巻いたマフラーとマスクを外す。暖められた空気が肌を撫ぜる。
暖房の効いた校内、寒さに強張っていた全身の筋肉が一気に脱力するのを感じる。
校舎の三階。一年三組の教室の扉を開けると、隅に仲の良い友人達が固まって何やら騒いでいた。
「あ、ひかる!」
僕に気がついた一人が、つつっとこちらに走ってきてぐいぐい手を引っ張る。こちらに「おはよー」と言う間も与えずに。
「大ニュースだよ!」
「ひかる、あんた知ってたの!?」
「マジで驚き、よーやるわぁって感じだよね!」
矢継ぎ早に言葉を浴びせかけられる。状況がさっぱりわからない
「……大ニュースって、何が?」
「いや、だから、あんた囲碁部なんでしょ?じゃ三年の有賀って先輩知ってるんだよね?」
知っているも何も……。
囲碁部は、僕とその先輩・有賀真弓しか活動していない弱小部だ。
顧問は養護教諭の谷崎先生。実はあと数人ほどメンバーがいるらしいが、見事な幽霊部員で僕は一度も会った事がない
有賀先輩。
すらりとした長身、短く切り揃えられた髪、いつも穏やかな薄い微笑を顔に貼り付けている。
そして右手人差し指の爪が少し窪んでいる。碁石の持ちすぎなんだそうだ。
明鏡止水。
称するなら、彼女はそんなイメージの人だ。
彼女が何かに対して本気で愚痴ることも、激昂することも、逆に腹を抱えて大笑いするところも、僕は見た事がない。
波風の一つも立たない、美しく済んだ湖。でもその湖は高山にある。穏やかだけど、綺麗だけど、どこか冷たい水。
「先輩がどうかしたの?」
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