14人が本棚に入れています
本棚に追加
うな垂れた僕を見て、落ち込んでいるとでも勘違いしたのだろうか。よってたかって頭をぐりぐり撫でられた。
「やだ、ひかるはそのまんまで十分だって!」
「そうそう。色気なんてなくたって、あんたは小っこくてヤバいくらいに可愛いんだから」
ちっとも慰めになっていない言葉に、曖昧な苦笑いを返した。
やがて担任が教室に姿を現し、皆各々の席に着く。
HRが始まる。担任の諸注意をぼんやりと聞き流しながら僕は窓の外へ視線を向けた。
葉を落とした、幹と枝だけの寂しい木々。グラウンドには誰も出ていない。
町並みの向こう、微かに見えるのは空へ向かって聳え立つ五本の柱。もくもくと黒煙を断続的に吐き出している。
風はこちらとは逆方向、海に向かって吹いているのか、煙は薄くなりながら彼方へ遠ざかっている。
だけど暗雲は、僕の頭の中に立ち込めていた。
豊胸?なんでそんな事を先輩がする必要がある!?
明鏡止水。
波風の一つも立たない、美しく澄んだ湖。
彼女が愚痴ることも、激昂することも、逆に腹を抱えて大笑いするところも、見た事がない。何かを呪う事も、現状に不満を持っている素振りも見せず。
ただ穏やかに、自然体の、そのままで美しい人。
高い場所にある、きっと辿り着けない、僕の想い人。
最初のコメントを投稿しよう!