始まりの日

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 2008年、4月。桜が散り出し、多くの人々が新たなる出会いに直面する季節。 霧咲 優(きりさき ゆう)もまた、その1人であった。  頭が痛くなるような目覚ましの音に、ゆっくりと目蓋を開ける。 ベッドのすぐ側に置いてあるそれの頭を叩き、黙らせた。 鳥の鳴き声、カーテン越しに、微かに射し込む朝日。 ついに、今日が始まった。4月7日、優の入った高校の入学式だ。 体をお越し、自分の目の前にあるクローゼットを見る。 学生服に飽き飽きしていた優が憧れた、ブレザーの制服。 左を見ると、9年間愛用し続けた学習机に置かれた、山積みの教科書。 何故こんなにも値段が高いのかと、彼の母がぼやいていたのを覚えている。 右側のカーテンの端っこを掴み、体を前方に傾けながら、勢いに任せてカーテンを開ける。 それまで遮られていた朝日が、容赦なく部屋に射し込み、思わず目を瞑ってしまう。 優はベッドから降り、大きく背伸びをし、窓を開けた。 春先と言えども、まだ風が冷たく感じる。 大きく深呼吸をすると、それまで寝惚け気味だった優の意識が、一気に覚醒した。 「よし……行くか。」 自分で自分に言うと、部屋の角にある出入口のドアを開け、廊下に出る。 両側にあるドアを横切り、そのまま前方の階段へ直進した。 階段を下りきると、まず始めに玄関が目に入る。 それは気に止めずに、180゚方向を転換し、目の前に見えるダイニングキッチンへの扉に向かう。 そして、ガラス張りの扉に、手を掛けた。
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