5・闘志

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……とりあえず、あの騒ぎを抑えるのに十分近くかかった。 「ま、まったく…耶俥君ってば紛らわしいことを――」 未だ紅潮したまま先輩がぶつくさと言葉を繋ぐ。 「だから喧嘩して殴られかけただけですよ。なぁ?」 「………」 さっきから後ろで構える彼女は一言も話そうとしない。 キワモノ揃いの原状では、やむ無しといったところか。 「それで、肝心要な質問なんだけどさ…この娘ダレ? アタシ知らないわよ。こんな可愛い娘」 デスクに座りながらニヤついてた先生が、サラッと核心をつく。 「オレだって知りたい。 なんでも…そう、アレだ。仮面ラ――な゛ぁうっ!!」 突然、腰辺りにねじ切られるような激痛が走る。 肉が千切られそうな一撃に悶絶した直後… 「ご紹介が遅れまして、たいへん申し訳ございません。 私は西園寺 彩(さいおんじ あや)。彼の学友だった者です」 鳥肌が立つような笑顔を浮かべる彼女の姿だった。 (ちょ、おま…!) 明らかな捏造を打破しようと、彼女・西園寺彩 に視線を送―― (バラしたらコロス) ――おぉ怖い怖い。 笑顔が、作り笑いが殺気を放って冗談抜きで怖い。 そんなわけで待機、成り行きに身を任せるヘタレ思考に身を委ねよう。 「へぇ、学友…ねぇ。 ちょっと意外ね。この子とあなたとじゃ少し釣り合いが足りないわ」 「学友といっても、二・三言葉を交わせた程度ですから。疎遠に見えてしまうのも当然ですよ」 …なるほど、ただの知り合い扱いか。 確かに意志疎通は不可能だわな。 「彼に会えたことも喜ばしいですが、貴女に会えたのはもっと光栄です。影宮哀奈さん」 「あら嬉しい。こんな小さな大学の教授がそんなに珍しいかしら?」 「貴女の書いた論文はいずれも学会で高い評価を得ています。 学問に精通した者なら誰でも御存知ですよ」 「んふふ~、アリガト彩ちゃん。気に入っちゃったから次の講義に招待しちゃおっかな~?」 「いえ…些事のついでに立ち寄っただけなので、これ以上長居するわけにはいきません。 今日のところはこれで失礼させて頂きます」 キチンと一礼し、知性の籠った仕草で西園寺は教授室を出る。 「……はぁ」 「はぁ、じゃないわよヤッくん」 「…なんですか? さっきから其処で放置されてる先輩でも気になりますか?」 「や、耶俥君!!」 「……冗談ですよ。見送ってきます」
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