47人が本棚に入れています
本棚に追加
-Doragon side-
五月晴れ、とはいかない天気の下、いつものスクーターで事務所を目指す。
肌寒い空気が容赦なく走る躰に打ち付けられる。
零さんと最後に会って、もう一週間近くが経とうとしている。
ライダーとしての不安とは裏腹に、日常 はあっけなく過ぎていく。
どんな些細な変化でも、ヒトは月日が流れるごとにやがては慣れていく。
―キィイイイイイイン―
「――ッ、あっちか!」
反響音に慣れきった躰が自動で車体を音の方向に向ける。
一分 も満たない間に鏡面の前に辿り着く。
「へ…変身!」
未だぎこちない仕草でデッキを掲げ、バックルへと差し込みながら 身体を鏡の海へ飛び込ませる。
フラッシュする視界、
反転する世界。
気がつけば、武骨な機械体がコチラを睨んでいる。
「――来るなら来いよ」
『―――!!!!』
地鳴りと咆哮が重なる。
地を這うように疾走する怪物を前に、龍騎の鎧は拳を前方に構える。
直後、突進するモンスターの姿が視界を覆い――
「はぁッ!!」
瞬の間で打ち込まれた拳が、絶妙なタイミングで敵を地面に転がした。
「仕留める!」
休む間なくカードを引き抜き、龍の頭へと差し込む。
『Strike vent』
右腕に嵌め込まれる無双龍。
全てを砕かんとする破壊の波動が、烈火として身を包んでいる。
『―――!!!』
地面を蹴り 空中からの攻撃へと迫るモンスター。
己が重量 全てを叩き込もうという その一撃に――
「――ッ、しゃあああ!!!」
打ち上げるように振り上げた右腕が迎え撃つ。
――ガァン と装甲が砕かれる音、
次いで 龍の顎に砕かれた怪物が地面に倒れ込む。
「――ぉおおおおお…!」
弓を構えるように右手を引く。
低い唸りに応えるように、烈火の波動が右腕へと収束していく。
『――■■■■!!!』
直後、世界が揺るがすように発せられた雄叫びは、紛れもなく龍騎の右腕から響き渡るものであり…
この瞬間…
彼の腕は、破壊の紅蓮を宿らせる無双の龍そのものになった。
「昇龍…突破ぁぁぁ!!!!」
放たれる紅蓮の侵略、
立ち塞がるモノ全てを焼き付くす炎殺の波動 が 怪物の姿をあっさりと飲み込んだ。
紅蓮の牙と顎に砕かれたソレは断末魔を上げる慈悲すら与えられずに、次の瞬間には塵も残らず虚像の世界から消滅していた。
最初のコメントを投稿しよう!