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「――へぇ。顔が割れてるから用心くらいはすると思ったけど、意外と呑気ねあなた。
ちょっと頭にくるわ」
彼女の口元に微笑が浮かぶ。だが瞳は笑みよりむしろ敵意を持って こちらに刃物のような視線を向けている。
――おぉ、怖い怖い。
「西園寺、女性がこんな時間に独り歩きするのは感心しませんな。夜這いなら場所を選びなよ」
「馬鹿。誰がそんなこと…」
「ストーカー紛いなら一回したけどな」
「…………」
―キィイイイイイン―
「うぉッ!!」
反響音が響き渡る真横の壁に浮かび上がる、飼い主と同じく敵意を走らせる怪物。
「――了解。自重するから横の‘コレ’なんとかしてくれ」
「もちろん、不意打ちなんてしないわ。ライダーとして、真っ向から叩き潰してあげる」
…この文明社会にまさかの決闘ごとか。
この学校のセキュリティが少々 不安になったぞ。
「――ッと」
一瞬、グラリと傾く視界。前につんのめる躰を壁に手を掛けて持ちこたえた。
「――?アンタ…」
「や、何…気にするな。
ただの貧血だよ。慢性的…のな」
「………」
興味がない、という感じに西園寺は視線を反らす。どこか取り繕った様にも見えたが、そんな些細なことを気にしている場合ではない。
「さて…と」
一歩、また一歩と秒読みじみた雰囲気をかもしだす西園寺。
一刻一刻と猶予ない状況のなか、革ジャンの中にしまい込んだデッキに手を伸ばす。
コイツはこうやって身につけているだけで、何か魅惑のようなモノを漂わせる。
これが‘力’なんだろう。
持っているだけで『俺を使え』と頭ん中で騒ぎ立てやがる。
ホント…鬱陶しいことこの上ない。
だけどまぁ…
「…そんな気遣いは、要らないか」
笑う、口元が抑えきれない衝動に吊り上がる。
「仕掛けてきたのは、お前だもんなぁ…」
「へぇ、ようやくやる気になったわけ?
上等よ…さぁ、始めましょうか」
西園寺がコートからデッキを取り出す。
既に間合いは一触即発。
あと一歩、彼女が踏み込めば その瞬間 闘争は始まるだろう。
そして、西園寺がゆっくりと、その間合いに踏み込――
「――だが断る!!」
―キィイイイイイン―
「――!!」
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