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瞬間、弾け飛ぶ朱い悪意。
地を這い風を切る一閃。
「――ッ、西園寺 前!
間違えた後ろ!!」
「え…?」
振り返るのが遅かった―――否、‘ソレ’が速すぎた。
―――ドン
「な…ッ!!」
ガイの鎧を背後から、闇夜を引き裂く朱いナニカが叩き込まれた。
ソレ はそのまま速度を失わず、巻き込んだガイの躰を容赦なく弾き飛ばす。
「――ッ、きゃっ!!!」
そのまま受け身も取れず、ガイの躰は激しくコンクリートに叩きつけられた。
「ったく、何だよ今度は…」
地面に倒れ込む彼女に駆け寄りながら辺りを見渡す。
先の朱いナニカは気がついたら視界から消え失せており、今現在、闇夜が広がるこの鏡面世界に自分達以外に動く物体は――
『ーSwing ventー』
いた。いつの間にか眼前に現れた、朱い鎧。
瞬時に現れた鞭っぽい武器を構えるソイツの周りに、先ほどの一撃を放ったナニカが降り立つ。
「……エイ、だな」
エイだ。平べったい躰に広げたヒレと先端の尾。
――それにしても、まさかのエイ。いや、コオロギの自分が言えた 義理でもないか。
「一応聞くけど……お前、何?」
とりあえず、まずは一声。
人間 話し合いで譲歩出来ない問題は無いわけだし…
「――ハハハ、敵を前に随分と呑気なことだね、君は。
まぁいい。本来なら君のような凡人に名乗る名は無いが、冥土の土産に憶えておいてくれたまえ。
‘ライア’、それが僕に授けられた力――」
「………」
――長い、ウゼェ、帰りたい。
まるで自分に酔ったようなソイツ…ライアを前に冷めつつも身構える。
何だかんだで敵意も感じるし、何よりコッチは先の戦いのダメージが多い。
「…謀られたか」
多分、漁夫の利を狙われたようだ。
どっちにしても、この場から逃げることを考えた方が良い。
「おい立て、西園寺。逃げ……」
地面に倒れ込むガイを見やり、一瞬 身が凍る。
「………」
「もしも~し?」
「………」
「……うわぁ」
気絶してる。
どうやら派手に頭を打ったらしい。
「まったく…いい加減にしろよ。ホント、付き合ってられないな」
鞭を構えるライア。敗色は濃厚。
よって、今もっとも有効な判断は…
「…悪く思うなよ。ま、恨まれる義理は、無ぇがな」
地面に倒れ込むガイを見下ろしながら、淡々とそう呟いた。
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