夢─消せない過去─

7/7
前へ
/193ページ
次へ
「やめろ!」  叫び声とともに、律は目を覚ました。  呼吸が荒い。  夏でもないのにシャツが汗で張り付いていた。  今のは……夢……?  額の汗を拭いながら辺りを見渡す。  月明かりがカーテンの隙間から漏れ、室内の輪郭を浮かび上がる。  夢の中とは違う。  紛れもなく自分の部屋だった。  置かれている状況をようやく把握すると、律は深く息をついた。  ひんやりとした部屋の空気が火照った体を冷やす。  次第に思考が冷静さを取り戻し、律はそこで自分の手が震えていることに気がついた。  ……まただ。  もう何年も前のことなのに、いまだに夢で見るあの光景。  どれだけ拒もうとも、それは消えることなく記憶の奥底に留まり、何度でも律を苦しめる。  しかし、怒りはない。  ただ途方もない悲しみだけが律を支配する。  それは呪縛であり、逃れることのできない運命だった。    俺は一体どれだけ苦しめばいい──  いつになったら俺は解放されるんだ──  何年考えたところで答えは変わらない。  救われないことくらい、もうわかっている。  律は無力でしかなかった。  だから律は行き場のない感情をどこにもぶつけることができず、一人声を押し殺して泣くしかなかった。  ──誰か助けて。  
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

657人が本棚に入れています
本棚に追加