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空が暗くなり始めた。
琴音との話が長すぎてすっかり遅くなってしまった。
慣れない下駄を鳴らしながら詩織は先を急ぐ。
着いた時には、会場は道行く人々で賑わっていた。
詩織は、琴音と手分けして辺りを見渡す。
ざわめきが行き交う中、高く挙げられた手。
あれだ。
詩織は琴音の手を引き、人ごみを掻き分けるようにして進む。
「遅いよぉー! 待ちくたびれちゃった!」
「ごめんね、裕貴」
頬をかわいらしく膨らます裕貴を、琴音がなだめる。
詩織は、肩で息をしながら両膝に手を置く。
「お待たせ、待った?」
辛うじて顔を上げると、いつもの無表情が待ち構えていた。
「別に。そんなに待ってねえよ」
「そ、そっか」
良かった。単純に安心した。
詩織は、何度も大きく息を吸って呼吸を整える。
「似合ってるじゃん、それ」
律が言った。
何のこと?
詩織は一瞬考えたが、すぐに理解した。
「ふふっ、ありがと」
小さく微笑むと、淡い黄色に染め上げられた浴衣の袖をヒラヒラさせる。
派手さはない。けれど、見るものを惹き付ける美しさがある。
セミロングの髪も、今日は浴衣に合わせて後ろでまとめてある。
律に誉められるなんて、頑張った甲斐があった。
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