657人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ裕貴、行こっか」
浴衣姿の琴音が裕貴の手を引く。
こちらは白と淡い紫の混ざり合う落ち着いた柄で、さっきまで幼く見えた琴音がぐっと大人の色気を放つ。
詩織も後に続こうとしたが、琴音は指をそっと口元に当てる。
「詩織ちゃんは律と楽しんできて」
「でも、いいんですか? せっかくの家族水入らずなのに」
「いいのよ。別にこれが最後じゃないんだから」
琴音なりの気遣いらしい。
詩織はためらいはしたものの、これ以上の拒否はしなかった。
その姿に琴音はにっこり微笑み、詩織に背を向けて裕貴と人波に消えていく。
その後ろ姿が見えなくなると、詩織は律を見る。
「行こっか」
「ああ」
ゆっくりと、琴音たちとは違う方向に歩み始める。
祭りのきらびやかな明かりが、あちこちから詩織を誘う。
──どこにしよっかなぁ。
悩みはしたものの、それはたったの一瞬。
詩織はよしっ、と意気込む。
「決めた。全部回ろう」
途端に律の端正な顔が歪む。
「……本気か?」
「うん!」
尚も苦笑いを続ける律だが、詩織はかまわずその手を引いて端の店から回り始める。
最初のコメントを投稿しよう!