実りのトキ

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「じゃあ裕貴、行こっか」 浴衣姿の琴音が裕貴の手を引く。 こちらは白と淡い紫の混ざり合う落ち着いた柄で、さっきまで幼く見えた琴音がぐっと大人の色気を放つ。 詩織も後に続こうとしたが、琴音は指をそっと口元に当てる。 「詩織ちゃんは律と楽しんできて」 「でも、いいんですか? せっかくの家族水入らずなのに」 「いいのよ。別にこれが最後じゃないんだから」 琴音なりの気遣いらしい。 詩織はためらいはしたものの、これ以上の拒否はしなかった。 その姿に琴音はにっこり微笑み、詩織に背を向けて裕貴と人波に消えていく。 その後ろ姿が見えなくなると、詩織は律を見る。 「行こっか」 「ああ」 ゆっくりと、琴音たちとは違う方向に歩み始める。 祭りのきらびやかな明かりが、あちこちから詩織を誘う。 ──どこにしよっかなぁ。 悩みはしたものの、それはたったの一瞬。 詩織はよしっ、と意気込む。 「決めた。全部回ろう」 途端に律の端正な顔が歪む。 「……本気か?」 「うん!」 尚も苦笑いを続ける律だが、詩織はかまわずその手を引いて端の店から回り始める。
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