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ヒーロー物らしきお面。ビニールプールをところ狭しと泳ぎ回る金魚。香ばしく焼き上がる焼きそば。
どれもが詩織を満足させるが、中でも思わずにやついてしまうのは、
「彼氏とデートかい?」
の一言だった。
誰もが口々にするのに、詩織は愛嬌を振りまき、律は居心地悪そうに顔を背けていた。
──かわいいやつ。
終始そんなやり取りを繰り広げ現在、詩織と律の手に握られているのはかき氷だった。
イチゴ味とメロン味。王道だ。
出店の列は途切れ、向かう先は人気が少ない木陰。
そこにひっそりと佇むベンチに、疲れた体を預けた。
火照った体を冷ますように一口。
キーンとくる頭を軽く叩き、詩織はポツリと言葉を落とす。
「楽しかったね」
返事はない。
むっ。
詩織は律を覗きこむ。
「ねぇ、シカトしないでよ」
「聞いてるよ。はしゃぎすぎて疲れたんだ。ちょっと休ませてくれ」
ただ無愛想にしてだけのくせに!
詩織は正面に向き直ると、無愛想な律の顔の残像をかき氷で流し込む。
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