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静まりかえる闇に、氷をしゃりしゃりと口にする音が響く。
会話がないため、詩織のカップはすでに空になっていた。
それを脇に置くと、なんでもなく空を見上げる。
吸い込まれるような星空が果てしなく広がっている。
「……ありがとうな」
不意に律が言った。
詩織は、上を向いたまま苦笑した。
「どうしたの? 急に改まって」
「今こうしていられるのも、詩織のおかげなのかもって。ほんのちょっと前までだったらさ、俺一人でウジウジしてたから」
「そんなことない。律は頑張ってた。私が保証する」
律は、一人では背負いきれない過去と向き合い、必死に生きてきたんだ。
ただの臆病者なんかじゃない。
「それに、今私がこうしていられるのは、律のおかげなんだよ」
「俺の、おかげ?」
困惑した声。
うん、と答えると、詩織は今までの出来事に思いを馳せるように遠くを見つめる。
「律が必要してくれたから、私は今の自分が好きになれたの。口が悪くって、お節介で、おまけに泣き虫な自分が」
挙がる自分らしさは、マイナス方向まっしぐら。
自分で言っていて、なんだか複雑な気持ちだ。
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