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だが、口に出してみてわかった。
これが自分の本音なんだ、と。
どれだけ情けなく思っても、律はそんな詩織を必要としてくれる。
その一点だけで、嫌いな自分に自信が持てる。ありのままの自分でいられる。
想いを再確認した詩織は横を向き、律に笑い掛けようとした。
だが、詩織の体が大きく揺れる。
「律……!?」
律の長い腕が、詩織を背中から大きく包む。
顔は優しく胸に押し当てられ、律の鼓動がはっきりと伝わってくる。
「好きだよ、詩織」
胸を熱くする一言。
小さく暴れていた詩織の体がぴたりと静まる。
「律、今なんて──」
律から離れ、質問しようと口を開く。
だがそれは途切れ、詩織は大きく目を見開いた。
口を塞ぐ柔らかな感触。心を満たしていく体温。
それがキスであるとわかるまで、そうかからなかった。
──嬉しい。
戸惑いはなく、詩織は目を閉じて、永遠にも似た時間に身を委ねる。
どれだけ互いを信頼しても、縮まらなかった僅かな隙間。
それが今、うめつくされていく。
ほんの十秒ぐらいだろうか。
詩織はソッと律から離れ、恥ずかしそうに上目遣い。
そこにある律の顔は、ほんの少しだけ上気していた。
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