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互いに見つめ合っていたが、風切り音とともに打ち上がる小さな閃光。
詩織は、空を見上げる
ドンっ
閃光は大きく弾け、深紅の花を夜空に咲かせる。
それをかわきりに、次々と打ち上がる色とりどりの花火。
「綺麗……」
詩織は、感嘆の声を漏らす。
まるで、自分と律のことを祝っているみたいだ。
このいい雰囲気に便乗して、頭を律の肩にそっと乗せる。
夢のようなだった告白が、だんだん実感として湧いてくる。
「これで、私たちは恋人同士だね」
「あぁ」
「もっと嬉しそうにしてよ」
「してるよ。あと、あんまこっち見ないでくれ。恥ずかしくて死にそうだから」
そう言う律は無表情に近かったが、心なしか綻んでいるように見えた。
これでも照れてるらしい。
相変わらず素直じゃないけど、それでもかまわない。
詩織は、幸せが流れ込む今という時間を全身に溜め込む。
いつまで経っても色褪せることの無い、最高の思い出にするために。
腕を深く絡ませる。
ドンっ、とまた一つ、大輪の花が夏空を彩った。
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