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後日談。
夏祭りの後、詩織は律と一緒に最終電車で東京に帰った。
律の実家に泊まる案もあったが、次の日が学校なため却下。
サボる、と律は簡単に言い出したが、琴音は母親としてそれを許してはくれなかった。
これで家族はまた離ればなれになる。もう離れて暮らす理由がないというのに。
理想と現実は違う。
そのことに詩織は心を痛めたが、琴音と裕貴の笑顔を思い出すと、そんな痛みも和らいでいく。
離れていても、目に見えない絆は繋がってる。
それさえあれば、また笑って会える。
そう思えた。
だから別れの時も、とびきりの笑顔で迎えることができた。
いつかまた会える日のために──
詩織は、洗面所の鏡で身だしなみを整える。
睡眠不足にも関わらず、いつにも増して表情が明るいのがわかった。
チェックが済むと、階段を軽快に掛け降り、一階喫茶店の入口のドアに手を掛ける。
すると、背後から声がした。
「いってらっしゃい、詩織」
ドアは開けたまま、詩織は振り返る。
そこにいたのは、私服にエプロン姿の夏美だった。
モップ片手に、店内清掃に勤しんでいるようだった。
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