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「あんたねぇ……補講よ補講。わかってるの?」
「わかってるよ。でも、二人で受ければ少しはマシだろ?」
律は、真面目な顔で言った。
詩織はしばらくぽかんと立ち尽くし、ふふっ、と笑みをこぼした。
「それもそうだね」
律と一緒なら、補講も案外悪くないかもしれないな。
気分はまた上昇を始め、その勢いで再び律の腕に体を寄せる。
律は、呆れるように詩織を見た。
「詩織、だから──」
「好きだよ、律」
「っ!」
詩織の言葉に、律が驚きをみせる。
しばらくして、照れるように頬をかいた。
「あ、ああ」
詩織をふりほどくことなく、律は歩きだした。
──かわいいやつ。
詩織は小さく笑うと、抱き締める腕にさらに力を込める。
伝わってくる柔らかな体温は、まるで光に包まれているような心地良さを与えてくれる。
そこに不安はない。
この光がある限り、どこまでも前へ進んで行ける。そんな気がする。
明後日のことはひとまず頭の片隅に置き、詩織は目の前にある幸せに身を委ねた。
二人の足音が刻む旋律は、慣れない関係にどこかちくはぐで、それが可笑しくもあり照れくさくもあった。
END
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