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「……お兄ちゃんやらしー」
「や、これは……」
言い訳を探す拓也だが、郁はすでにシカト。
視線を真由に向けてジトっとした目を輝かせると、「じゃあごゆっくり」と爽やかに退室。
幼い顔に似合わず、とんでもない二面性の持ち主だ。
残された二人はというと、
「兄としての威厳が……」
「郁ちゃんかわいいなぁ~」
拓也は計り知れないダメージを負い、真由は純真無垢な笑顔に身を悶えている。
こんな二人が抱き合う姿は違和感だらけで、一種のホラーだった。
俺ってシスコンだったのか……?
拓也は己の隠されたアブノーマルな一面に愕然とし、フラフラになりながら長テーブルに備えられたイスにドサッと座りこむ。
それを見て真由も拓也の真向かいに座る。
カバンをがさごそと雑に漁り始め、出してきたのは数学の教科書と問題集だった。
「はい、やるよっ」
手をパンパンと打ち鳴らす音が響く。
拓也は力無く顔を上げ、一つ大きなため息をつく。
──兄妹関係の修復はまた後にしよう。
もちろん同じ屋根の下で暮らす以上、必要不可欠なことに違いないが、テストは待ってはくれない。
拓也、律、詩織の赤点三連チャンだけはなんとしても避けなければならない。
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