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拓也は己に喝を入れると、教科書を開いて穴が開きそうな程の目力を込める。
いつになく真剣な表情。
夏休みの補講という恐怖が彼をここまで駆り立てるのだ。
真由はしばらくそんな拓也を眺めていたが、集中した様子にひとまず安心し、同じく勉強を始める。
教える側であってもテストは受ける側なのだから、時間を無駄にはできない。
いつも口を開いている二人が黙る奇妙な空間。
代わりに、カリカリ、ケシケシ、というシャーペンと消しゴムの単調な音が部屋を満たす。
そうすること十分。
真面目に式を写していた手を止め、拓也が高々に挙手した。
真由はその気配に気付き、顔を上げる。
「しっつもーん!」
「なぁに?」
「何がわからないかがわからんっ」
「……えっ?」
規格外の精神的強さを持つ真由が固る。
想定していた最悪の予想をホップで越えられた。
先の知れない勉強会に、身体中の血がサァーっと引いていく。
「嘘でしょ? もっと気のきいた質問ができるでしょ?」
「無理だろ。そもそも、何を質問していいかわかんねぇし」
呑気な声が鼓膜を揺らす。
真由の脳内では、ステップ、ジャンプと拓也が高く飛び上がり、見事な三段跳びを決めてみせた。
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