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「で、ここがね~」
「近い」
「この方程式に代入して~」
「だぁー! 集中できるかぁー!」
拓也は乱暴にペンを置き、なぜか腕にまとわりつく真由を睨みつける。
教えてもらえるのはありがたいことだが、悩ましい感触のせいで一向に頭に知識が届かない。
真由はわざとらしく耳を塞ぎ、不快感をあらわにする。
「うるさいなぁ。教えてもらってるくせに文句言うの?」
「教える気があるなら離せ。だいたい何で抱き着いてくんだよ」
「ん~、好きだから?」
なぜか疑問系。質問に質問では会話は進まない。
真由はこういうやつだ。
どんな時であっても、己の欲望に忠実なのだ。
諦めが肝心。
というわけで、拓也は無駄な反論を止め、腕を襲うマシュマロのような弾力に神経を使いながら頭に数式を詰めていく。
ペンは軽快に動き、真っ白なノートが努力の賜物で埋まっていく。
口ではああ言っているが、躊躇いなく『好き』と言われて悪い気はしない。
拓也だって真由のことが好きだ。間違いなく。
ただ彼女の愛情表現が強すぎて、自分の本音を伝える隙間がないのだ。
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