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咲宮律は、気が付くと薄暗い部屋に立っていた。
ここは……どこだ?
外から静かな雨音が聞こえる。
部屋を見渡すとそこは広いリビングで、少なくとも自分の部屋ではない。
どうしてこんな場所にいるのか。
心当たりなんて皆無だが、律は自問自答せずにはいられなかった。
しかし、考えようとすればするほど思考回路が痛みを以てそれを拒む。
寝起きでもないのに、意識が曖昧で定まらない。
これが現実か、夢か。それすらも判断がつかない。
気分を変えようと、律は鈍く痛む頭を押さえながら他の部屋も回る。
寝室に洗面所。玩具や漫画で埋め尽くされた子供部屋。
眺めているだけで、幸せそうに笑い合う家族の姿が浮かんでくる。
家族……か。
懐かしい響きだ。
何年も忘れていた、もはや馴染みの薄れた平和な単語。
今、みんなはどうしてるんだろう。
律は目を閉じてしばらく感傷に浸る。
と、その時。
突然甲高い破壊音が静寂を破った。
律の意識を現実へと強引に引き戻す。
誰か、いるのか……?
すでに部屋の中は静寂を取り戻していたが、かわりに息苦しいほどの緊張感をまとい始めていた。
状況がよく呑み込めないまま、ガラスが割れたような音を頼りに進む。
その結果、辿り着いたのは律が意識を取り戻したリビングだった。
そして、開けてきたはずのドアは、なぜか閉まっていた。
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