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「ハァ……」
翔哉は右手を学生服の懐に入れ、内ポケットに入っているであろう“何か”をそっと確認した。
「────もう少し、か」
“何か”を再び内側にしまって視線を変え、黙って歩道橋の上から道路を行き交う車を見つめる翔哉に対し、男の何かが切れる。
「お前ぇ……」
同時。
男の何かが切れて同時、しっかりと握り締めた拳が力強く翔哉に放たれた。
「ふざけんじゃねぇっ!!」
翔哉がまた、ボソリと呟く。
「……2……1────」
────スカッ。
すっ、と背中を押され前のめりになった男は、そのまま勢い良く顔面から地面に突っ込んだ。
「っが、痛ぇっ!! ……ぇ、ああ!?」
訳の分からなくなった男は顔を上げ、ブンッと顔を揺らして後ろを振り向く。
翔哉は男の後ろを歩いていた。
それも、すでに2、3メートルは離れている場所に。
「……たく、面倒なんだよ」
翔哉は左手で鞄を肩と背中に引っ掛ける様に持ち、右手をズボンのポケットに入れ、男の事を一目も見ることなく去っていった。
「な……て、てめぇ!!」
歩道橋の階段を降りていく翔哉。
男は顔面の痛みも先程の盛大なコケっぷりの恥ずかしさも気にせず、立ち上がって翔哉を追った。
「お゛いっ!」
階段に繋がる曲がり角、周りに構うことなく怒鳴った。
見下ろした先、まだ階段を全て降りて下に着く筈も無いのに。
……翔哉の姿は無かった。
「…………っ!」
男はやりきれない怒りから、歩道橋の錆びた手すりを思い切り殴った。
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