『時と時の狭間』

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この奇妙な時計。それは、“人が狭間の時を生きる為の道しるべ”となる代物。 名前を『スタインス・クロッカー』という。 時はさらに僅かに進み、午後5時50分23秒。 中針がカチッと静かに動き、線は1周するまで残り1本、7秒。 24秒……25秒──。 翔哉は懐中時計を持っていた右腕をだらりと垂らし、そっと、目を閉じた。 誰もいない、路地の真ん中で。 そして、28秒……29秒────……。 カチッ。30秒──。 時は訪れた。 ──歩いていた学生は、片足を上げて止まり。 ──飛んでいた鳥は、空中で止まり。 ──走っていた電車は、線路の上で止まり。 ──衝突しかけた車同士は、隙間を空けて止まり。 世界は“変化した”。 「さあ、出てこいよ……」 いつの間にか目を開けていた翔哉は眉間にシワを寄せ、性格に似合わずニヤリと犬歯を剥き出しにした。 時刻は午後5時50分30秒。 懐中時計の長針と短針は、ビクとも“動かない”。 30秒、少し時間が経つ。……が相変わらず30秒。 そう、いつまで経っても“30秒のまま”。 だが本当は、それ(針)だけが止まっている訳ではない。 実際のところ、時計は微塵も壊れていない。 真実。 “この世界の時間が停止した”。
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