《黒髪の歌い手》

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戦争で疲弊したこの国で、一人の人間を捜すのは、容易い事ではなかった。 私が暮らしていた街のように、焼け落ちてまでいないにしても、社会的な機能は著しく停滞していた。 警察は在っても、個人的な人捜しなど構ってはくれなかったし、自分で捜すにしても、交通手段は寸断されていた。 仮に、交通手段が有ったにしても、使うお金など持ってはいなかったが・・・。 私は、働いて、幾ばくかの小銭を稼いでは、パットの手がかりを探して、幾つもの町や村を旅してまわった。 幾つかの仕事を経験する中で、人が集まり噂話が飛び交う、 例えば酒場の仕事などは、情報を得るのには都合が良かった。 もっとも、戦後の荒廃した時代だから、おいそれと都合の良い仕事ばかりは見つからず、犯罪にこそ手を染めなかったが、時には、戦場で覚えた銃の腕が役に立つような仕事になることも有った。 そうするうちに、たちまち3年の月日が流れ、パットは見つからないまま、また、冬が廻って来た。
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