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「あ・・・あの、私は、アルバート・ウィンドールと申します。
人を捜して旅をしている者です。
ここに、素晴らしい歌手がいると聞いて来ました。」
「あら。それってあたしの事?嬉しいわね。」
私の事をファンだとでも思ったのだろうか、彼女は途端に表情を和らげ、にっこりと微笑んだ。
私は、敢えてそこには触れず、パットの写真を取り出した。
「この女性です。パット・パディントンと言います。あなたと同じに素晴らしい歌い手です。
どうか良く見てください。戦前の写真ですから、少し変わっているかもしれませんから。」
彼女は私の手から写真を受け取ると、あまり興味がなさそうに見ていた。
何気なく、ひらりと写真を裏に返す。
そこには、私が書き止めた、あの歌の歌詞が記されていた。
その文字を読む彼女の顔が、見る見るうちに蒼ざめていく。
「あんた、この歌をどこで?あのオークのところに行ったのですか?」
「オーク?何の事です?・・・いや。そんな事はどうだっていい。やはりあなたはこの歌を知っているんですね。
これはパットの歌です。
パットはどこでどうしているんですか?教えてください!」
「そのパットというひとは、あんたの恋人?」
「ええ、そうです。戦争で行方が分からなくなってしまった、私の大切な人です。」
「・・・・・・。」
黒髪の歌い手は、暫く、私の顔を見たまま沈黙していたが、深く溜息を吐くと、私を部屋に入るよう促した。
「ちょっと話が長くなりそうね。立ち話もなんだから、どうぞお入りくださいましな。」
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