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歌手は、ヘレナ・ブレナンと名乗った。
「レナでいいわ。何かお飲みになる?安物のお茶かブランディーぐらいしか無いけど。」
薄汚れた防寒着を脱いで、空いた椅子の背に掛けている私に、彼女が、グラスを手に取りながらそう言った。
「ありがとうレナ。でも、それよりも話を聞かせて貰いたいのですが?」
彼女は肩をすくめて席に着いた。
「・・・あの歌ね。旅先で仕入れたものよ。」
「仕入れた!?いつ頃!?誰からですか!?」
「まぁ、落ち着いて。キチンと話しますから。・・・やっぱりちょっと飲んだ方がいいかしら。話が話だから、あたしも飲みたいの。付き合ってくださいな。」
身を乗り出して話を急かせる私をたしなめて、レナはブランディーを注ぎに席を立った。
それにしても、『話が話だから』・・・とは?この女は、いったい何を話すつもりなのだろうか・・・。
「どうぞ。」
私は、彼女が差し出したグラスの、琥珀色の液体を口に含んだ。
なるほど、舌がピリッとするような、安い酒だ。
彼女は、一気にグラスの半分を喉に流し込むと、唐突に話し始めた。
「歌を仕入れたのは、何人かの男たちからよ。ここから南に2つ行った小さな町で・・・。そこに古いオークが有るわ。」
「オーク(=楢の木)。あなたはさっきもそう言いましたね。」
「ええ、ライブオーク(=常緑樹のオーク=樫)よ。」
レナは、グラスに視線を落としたまま、静かに話しを続けた。
「旅の途中で知り合った男から、偶然噂を聞いたのが始まり。
その男が、歌をわりと良く覚えていて・・・、とは言っても一部分だったけど・・・、聞いた時は、思わず身震いしたわ。
この歌が聴きたい。いえ。歌いたいと思った。
それで、男がその歌を聞いたと言う町に行ったの。」
「そこで、あなたも聴いたんですね?」
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