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「私は、戦争で、家族も家も財産も、何もかも失ってしまいました。
いっときは、パットも死んでしまったものと思い、私は生きながら、屍も同然で暮らしていました。
けれどレナ、あなたが歌を伝えた少女に会い、その歌を聴いて、私の魂はほんの少し息を吹き返したのです。」
「まぁ。あの娘にお会いになったの。不思議な縁だわね。」
レナは、窓辺から椅子に戻り、私の前に座り直した。
「私の魂は、もはやパットが居なくては、生きてはいられないらしいのですよ。
ですから行くしかないんです。
パットの元へ、世界の果てだろうと、死者の国へだろうと。
パットが私を呼んでいると言うのなら、尚更です。」
レナは、肩を落として目を閉じ、ほうっと溜息を吐いた。
そして、髪の毛を弄りながら、何事か考えている様子だったが、顔を上げて切り出した。
「こんな事を言い出すと、また怒らせてしまうかもしれないけれど・・・、
あたしにはやっぱり、パットと言うひとは、死んでしまっていると思われるのです。
もしそうならば、あの歌を、あたしに譲ってはくれませんでしょうか?
・・・いいえ。あたしが作ったなどと申す気は有りません。
ただ、自由に歌って良いと、許して貰えるだけでいいのです。」
その申し出に、私は、怒るより呆気に取られた。
目を丸くしている私に、レナは続けて言った。
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