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空を見ると、のっぺりと鉛色だった空は、幾らか白っぽくなり、雲の端々が、頬紅を差されたように、夕陽に照らされている。
随分丸みを増してきた月が、雲の隙間に、ぼんやりと滲んで見えた。
やがて、道の向こうに、残照に包まれて、巨樹のシルエットが浮かび上がると、どこからか風に乗って、鳥のさえずりのような音が聞こえてきた。
鳥?こんな季節のこんな時間に・・・。
その音は、オークに近付くほどにはっきりと聞こえて来る。
まるで墓地から聞こえてくるような、美しく、寂しげなさえずり。
そして、時折、微かに混じる、澄んだ鈴の音。
鳥の声は、今までにも、何度か聞いたことのあるものだった。
「これは・・・小夜啼き鳥か。」
美しい声。パットも好きだった鳥だ。
私は、引き寄せられるように、しだいに足を速め、近付いていく。
突然、耳元で『リン』と鈴が鳴った。
私は驚いて辺りを見回した。
すると、急に頭を振ったせいか、目眩に似た・・・何と言うか、辺りの空気をかき混ぜられたような、そんな感覚を覚えた。
その瞬間、今まで聞こえていた鳥の声がピタリと止み・・・、
・・・女性の歌声へと変わった。
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