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『・・・私は今でもあなたを想い
あの日の歌を歌っています
ああ あなた 愛しい人よ
月の窓辺に来てください
小夜啼く鳥に姿を変えて
あなたへ歌を届けましょう・・・』
パット!
彼女の歌だ。
間違いはしない。彼女の声だ。
「パット!!」
私は思わず叫び、オークの根元へと駆け寄った。
「私だ!アルだ!
パット、君なんだろう?何処にいる?姿を見せてくれ!」
私の呼びかけに反応したのか、ふいに歌が途切れた。
続いて聞こえてきたのは、やはり、パットの声だった。
『・・・あなた、なのですね。待っておりました。さあここへ。』
しかし、まるで夢の中ででも聞くような、か弱い響きで、何処から聞こえるのかも、判然としない。
私は、繰返し呼んだ。
「パット。何処だ?何処にいる?」
『待っておりました。さあここへ。ここへ。』
ここ?オークのことか?
声は、耳から聞こえるのでは無いようだった。
頭の中に、直に響いてくる・・・、どこか苦しそうな声。
生者の仕業ではない・・・。
そう思われた。
やはり生きてはいないのか?
「パット・・・。」
いいだろう。
君が呼ぶと言うのなら、何処にだって行こうじゃないか。
そのために、ここまでやって来たんだ。
君が要ると言うのなら、この命だって、喜んで差し出そう。
私は、オークに歩み寄り、手を差し伸べ、その幹に、触れた。
『リィン・・・!』
再び耳元で、鈴が鳴った。
さっきよりも大きな、確かな音色で。
その音に、頭の中に響いてくる、パットの声は掻き消され、私はハッと我に返って、顔を上げた。
何故今まで見えなかったのか・・・、
それとも、たった今、空間から現れ出たのだろうか・・・?
私のすぐ目の前に、1人の少女が立っていた。
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