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私は黙って付いて歩いた。
急ぎ足で、5分以上は歩いたろうか。
私たちは、窓から、蝋燭の、暗く柔らかな灯りが漏れる、小さな小屋の前に立っていた。
天使は、その黄金色の瞳で、私の顔をじっと見つめたあと、うなずくような仕種をした。
「この中には、あなたが大切に想い、追い求めていた夢と、とても残酷な現実との、両方が有ります。
けれども、アルバート・ウィンドールさん、あなた方なら、全てを受け入れ、乗り越えられると、信じています。
どうぞ。この小屋の戸を叩いて、中へとお入りになってください。」
それだけ言うと、天使は、ふわりと翼を広げ、もと来た方へと、飛び去ってしまった。
天使の姿をした少女は、あっという間に見えなくなった。
一瞬、夢だったのではないかとも疑ったが、頬に突き刺さる、冷たい夜風が、そうではないと教えてくれた。
私は改めて、小屋に向き直り、入り口の戸を見つめた。
飾り気の無い、焦げ茶色の薄っぺらな木のドアで、中からは、僅かだが、人の気配が感じられた。
この中にパットが・・・?
私は、ドアをノックしようと、拳を上げたが、天使の言葉が思い出され躊躇した。
『この中に、あなたが追い求めていた夢と、残酷な現実の、両方が有ります。』
残酷な現実とは何だろうか?
果たして本当に、パットが、生きてこの中にいるのだろうか?
さっきの歌声・・・、もしかして彼女は、やはりもう・・・。
頭をよぎるそんな考えを振り払う為に、私は、首を大きく横に振った。
そして、不必要なくらい、拳を固く握り締め、思い切ってドアを叩いた。
・・・少し待ったが、返事は無い。
もう一度叩こうとした時、
コトッ、という音がして、静かに、少しだけ、ドアが開けられた。
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