《歌えない鳥》

2/8
前へ
/39ページ
次へ
私たちは、手を取り合い、肩を寄せ合って、小屋に入った。 古い小屋の中は、掃除こそされているが、暗い感じがした。 部屋に有るのは、簡素なベッドと、薪のストーブ、それからデスクを兼ねた小さな箪笥と、椅子が一つだけ。 デスクの上には、蝋燭が揺らめいており、箪笥の上には、今は何も生けられていない、淡い水色ガラスの一輪挿しと、やはり空っぽの鳥篭が一つ、置かれている。 パットは、私を椅子に掛けさせると、しばらく、懐かしいような、悲しいような、何とも言えない表情で、私を見つめていた。 私も、彼女に出会えた喜びばかりが、心を占めていて、惚けたように彼女を見つめ返していた。 蝋燭の灯りに照らされた彼女は、もう何年も着ているような、古びた、アイボリーホワイトのポロネック(=タートルネック)のセーターを着ている。 やつれた姿・・・、おんぼろの小屋・・・。 私は、彼女のこれまでの暮らしに、思いを廻らせた。 「あれから、さぞ苦労をしたんだろうね。 戦争から戻って、ずっと捜していたんだが、こんなにも遅くなってしまった・・・。すまない。」 詫びる私に、彼女は、静かに首を横に振ると、テーブルのところへ行って、ペンと紙束を取り、その一枚に何事か記して、私のところに持って来た。 紙には、短い2つの文が書いてあった。 【会えて、とても嬉しいです。】 それと・・・、 【声を、失いました。】 私は、一瞬その意味が理解出来なかった。いや、したくなかっただけかも知れないが・・・。 ただ、心臓を鷲掴みにされたような、苦しさを覚えた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加