《歌えない鳥》

4/8
前へ
/39ページ
次へ
彼女の記した文字は、こう続いていた。 【アル。生きて再び、あなたに会えるとは、正直思っておりませんでした。 よく、あの戦争を生き延びて、帰って来てくださいました。 嬉しくてたまりません。 なのに、あなたの名前を呼ぶことも叶わない。 今でも、昨日の事のよう思い出せる。 あの日のように、あなたの隣で、歌えたら・・・。】 読み終えて顔を上げ、彼女に視線を移すと、その頬には、三たび涙が伝っていた。 「声などどうでも構うものか。生きていてくれたただけで、こんなに嬉しい事は有りはしない。 やっと私の体に魂が戻った心地だよ。」 私は、彼女の頬に手を当て、指で涙を拭った。 「一緒に暮らそう。今はまだ、楽な暮らしをさせてはやれないけれど、一生懸命働くさ。 君と一緒に居られるならば、苦労などで有るものか。」 その夜、私たちは、互いの身に起こった苦難に涙を流し、9年の歳月を越えて巡り会い、やっと愛の誓いを果たせる事に喜び、2人の未来について語り合った。 そしてやがて、2人とも疲れて、ぐっすりと眠ってしまった。 私は、夢の中でパットの歌を聞いていた。 しかし、ふと目を覚まし、それが現実に聞こえているのだと、気が付いた。 横を見ると、パットはぐっすりと眠っている。 オークのところで聞いたのと同じに、歌は、頭の中に直接響いて来る。 あの天使か? なぜ、まだ歌っているのだろう。 私を呼んでいるのか? 私は、そっと小屋を抜け出し、オークの有る墓地へと歩いて行った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加