《バックヤードのお化け》

4/5
前へ
/39ページ
次へ
2人が椅子に掛けるのを見届けてから、私も椅子に腰を下ろし、先ずはパイプに火を点けて煙を吐き出した。 窓から射し込む太陽の光を受けて、白くはっきりと形を現した紫煙は、何か優美な生き物ででもあるかのように、部屋の中を漂って行く。 その煙の向こう側で、ニックもベッキーも、待ちきれないという顔をして、私を見ていた。 「もう今から50年も前に、この国で戦争が有ったことは知っているかな?」 「うん。学校で習ったよ。」 ニックが自慢顔で言った。 私はにっこりうなずいて続けた。 「その戦争が、始まった時分の話だ。その頃、わしには好き合った娘がおってな・・・、」 「えー。おじいちゃんに?」 「はっはっ・・・、わしだって恋くらいするさ、まだ20歳ぐらいの若者だったからなぁ。」 「分かった! それっておばあちゃんでしょ・・・。」 「お兄ちゃんっ!! ・・・ねぇ、それで?」 さっそく話の腰を折る兄を、うるさそうに睨みつけ、ベッキーが先を促した。 「歌の好きな娘だった・・・」 私は、もう一度たっぷりと煙を吐き出し、昔話を語り始めた。 ・・・歌が好きで、また、上手な娘だった。 街でも評判になるほど美しい声。 月の光を受けて、腰近くまで届く、真っ直ぐな金髪を煌かせて歌う様は、そりゃあ綺麗だった。 言い寄る男は多かっただろう。 私もその一人だった訳だが・・・。 彼女はそんな男たちの中から、私を選んでくれた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加