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2人が椅子に掛けるのを見届けてから、私も椅子に腰を下ろし、先ずはパイプに火を点けて煙を吐き出した。
窓から射し込む太陽の光を受けて、白くはっきりと形を現した紫煙は、何か優美な生き物ででもあるかのように、部屋の中を漂って行く。
その煙の向こう側で、ニックもベッキーも、待ちきれないという顔をして、私を見ていた。
「もう今から50年も前に、この国で戦争が有ったことは知っているかな?」
「うん。学校で習ったよ。」
ニックが自慢顔で言った。
私はにっこりうなずいて続けた。
「その戦争が、始まった時分の話だ。その頃、わしには好き合った娘がおってな・・・、」
「えー。おじいちゃんに?」
「はっはっ・・・、わしだって恋くらいするさ、まだ20歳ぐらいの若者だったからなぁ。」
「分かった!
それっておばあちゃんでしょ・・・。」
「お兄ちゃんっ!!
・・・ねぇ、それで?」
さっそく話の腰を折る兄を、うるさそうに睨みつけ、ベッキーが先を促した。
「歌の好きな娘だった・・・」
私は、もう一度たっぷりと煙を吐き出し、昔話を語り始めた。
・・・歌が好きで、また、上手な娘だった。
街でも評判になるほど美しい声。
月の光を受けて、腰近くまで届く、真っ直ぐな金髪を煌かせて歌う様は、そりゃあ綺麗だった。
言い寄る男は多かっただろう。
私もその一人だった訳だが・・・。
彼女はそんな男たちの中から、私を選んでくれた。
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