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その頃の私の家は、まあまあ裕福だったが、もちろん彼女が私を選んでくれた理由はそんな事じゃぁないだろう。
彼女の家も、決して貧しくなどなかったし、彼女は何の打算もなく、・・・いや苦難さえ覚悟して私を愛してくれたんだ。
なぜなら・・・、
彼女の名は、パット・パディントン。
私、アル・ウィンドールの家とは、代々険悪な仲の家の一人娘だったんだから。
「ほぉら。パットって、やっぱりおばあちゃんだよ。」
ひそひそと話しかけるニックの足を、ベッキーが、机の下で蹴っ飛ばした。
昔々・・・、
ずうっと昔のご先祖様が、どうやら、領地の取り合いでもした事が、両家の不仲の原因らしかったが、そんな昔話、私とパットには何の関係も有りはしないことだった。
けれども、2人の一族は、私たちが惹かれ合う事などもってのほか。
会う事さえも許してはくれなかった。
私たちは、日が暮れてからこっそりと家を抜け出しては、彼女の名前で街外れに所有していた、ろくに使っていない古い別荘で会うほかはなかったんだ。
私たちはそこで、彼女の歌声を聴き、2人で飼っていた小鳥の囀りを聴き、愛の言葉を囁き合って、ほんの僅かな、最高に幸せな時間を過ごしていた。
そう・・・、幸せな時は、本当に僅かだった。
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