《焼け跡の父娘》

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歳をとると、話が長くなっていけない。 私は2人の孫たちに、お茶を振舞いながら、先を話すことにした。 ベッキーがお茶を入れるのを、ニックがビスケットを並べるのを、手伝った。 ベッキーはビスケットを1枚口にし、美味しそうに紅茶を飲んだ。 ニックは、紅茶をすすってちょっと顔をしかめ、砂糖とクリームをたっぷりと入れた。 「さて、話を続けてもいいかね?」 私は、再び話し始めた。 『家』を恨んだことも有った。 私とパットは、2人の仲を引き裂こうとするその『家』を、捨てようとさえ考えていた。 しかし、今度は戦争が私たちを離れ離れにし、更には『家』も、家族までも奪ってしまった。 そればかりではない。 愛する、パットまで・・・。 なんという残酷な運命なのだろうか。 この世界に、神など在りはしないのか。 私に残されたものは、肌身離さず持っていた彼女の写真がたった一枚と、くたびれ、やつれた果てに空っぽになった、魂の器だけだった。 私は、煤けた軍服を身にまとったまま、屑山となった街の跡を、幾日も、ただ当ても無く彷徨った。 上着の内には、まだ数発の弾が残った銃が有ったが、もはや、潔く命を絶とうと考える気力さえ、残ってはいなかった。 時々『器』が、腹が減って堪らないと訴えれば、本能のまま、何か得体の知れない、草だか動物だかを手に入れて食べ、疲れ果てて倒れれば、そのまま眠った。 ただ、息をして、心臓を動かしている。 それだけの時間が、無限に続いていくように感じていた。 ところが或る日のこと、私は、一組の父娘に出会ったんだ。
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