《焼け跡の父娘》

4/5
前へ
/39ページ
次へ
雪の降る焼け野原に立ち、父親がボロボロの楽器をかき鳴らし、まだ幼さの残る娘が、歌を歌っていた。 そうやって、食べ物や着る物を恵んでもらっている様子だった。 私には、恵んでやる物など有りはしなかったし、歌など聴く心も無くしていたものだから、早々にその場を立ち去ろうとしていた。 だが、聞こえてきたその娘の歌に、私の、失ったはずの心は揺さぶられ・・・、 いや、まるで殴られたような衝撃さえ感じて、足を止めた。 私は、慌てて少女に走り寄ると、そのか細い肩に掴みかかった。 突然の見知らぬ男の奇行に、驚いて止めに入る父親を振り払い、掴んだ少女の肩を力任せに揺さぶりながら、私は声を枯らして尋ねた。 「どうしてその歌を・・・、その歌をどこで覚えた!?その歌を歌っていた女性は・・・パットは、どこへ行ったんだ!?」 「い、痛い!放してください。話します。お話しますから・・・その手を放してください。」 その時の私の顔ときたら、きっと、悪魔か幽霊のようだったろう。 私は、すっかり怯えさせてしまった父娘に詫び、改めて頼んだ。 「お願いだ。私の大切なヒトなんだ。この世界でたった一人の・・・。どうか教えてください。その歌を歌っていた女性の事を・・・。お願いです。」 「分かりました。頭を上げてください。知っている事は、皆お教えしますから。」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加