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雪の降る焼け野原に立ち、父親がボロボロの楽器をかき鳴らし、まだ幼さの残る娘が、歌を歌っていた。
そうやって、食べ物や着る物を恵んでもらっている様子だった。
私には、恵んでやる物など有りはしなかったし、歌など聴く心も無くしていたものだから、早々にその場を立ち去ろうとしていた。
だが、聞こえてきたその娘の歌に、私の、失ったはずの心は揺さぶられ・・・、
いや、まるで殴られたような衝撃さえ感じて、足を止めた。
私は、慌てて少女に走り寄ると、そのか細い肩に掴みかかった。
突然の見知らぬ男の奇行に、驚いて止めに入る父親を振り払い、掴んだ少女の肩を力任せに揺さぶりながら、私は声を枯らして尋ねた。
「どうしてその歌を・・・、その歌をどこで覚えた!?その歌を歌っていた女性は・・・パットは、どこへ行ったんだ!?」
「い、痛い!放してください。話します。お話しますから・・・その手を放してください。」
その時の私の顔ときたら、きっと、悪魔か幽霊のようだったろう。
私は、すっかり怯えさせてしまった父娘に詫び、改めて頼んだ。
「お願いだ。私の大切なヒトなんだ。この世界でたった一人の・・・。どうか教えてください。その歌を歌っていた女性の事を・・・。お願いです。」
「分かりました。頭を上げてください。知っている事は、皆お教えしますから。」
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