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私の中の僅かに残った魔力を絞りだし、時を止める。
数秒しか保たないだろう。
その数秒で生き長らえるんだ。
私以外の時間が止まる。
吸血鬼も、彼女の光の矢も。
私は動かない足を引きずりながら、光の矢の当たらないギリギリの位置まで避ける。
そしてありったけのナイフを吸血鬼目がけ投げる。
こんなものが食らうとは思えないが、最後の悪あがきだ。
これ以上時間を止めることもできない。
もうやれるだけの事はやった。
これで殺されたとしても、それが私の限界だった。
ただそれだけの事だ。
「ぐふっ!」
魔力が限界を超えた。
無理をしすぎた。
血が口から吹き出る。
鼻からも血が流れる。
時の流れが戻った。
光の矢は物凄い勢いで先程まで私が地点に正確にぶつかり、地面を抉る。
私のナイフは真っ直ぐに吸血鬼に飛んでいく。
が、そこにはすでに吸血鬼の姿は無かった。
「ふーん。まだ魔力が残ってたんだ」
吸血鬼の声だ。
私は後ろを振り返る。
吸血鬼はニヤニヤと笑顔で私の目の前に立ちふさがる。
私の負けだ。
私には分かった。
この吸血鬼は私が時を止める瞬間が分かるのだ。
「……どうして分かる?」
「貴女が時を止める瞬間、貴女の魔力が空間に満ちるのが分かるの。それも広範囲に。 そういうのに私は敏感なのよ」
吸血鬼は楽しそうに話す。
「……お前、私のことを知っているような口振りだったな?」
「貴女がくるのが分かったのは少し前の事よ。パチェ…私の友達の魔法使いが言ったのよ、強力な力を持った運命的な人がこの日に訪れるって」
魔力が尽き、倒れる私になんの警戒心も持っていないのだろうか。
横にやってきてその場に座る。
「それに、私の能力は運命を操る事ができるの。これくらいのことなら見通せるわ」
吸血鬼は自慢気に話す。
「運命を…。それは凄い能力だな」
運命を操る。
そんな力を持っていたのか。
成る程、適わないわけだ。
私は笑ってしまう。
吸血鬼はなぜ私が笑うのかわからないのだろう。
可愛い顔をキョトンとさせている。
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