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いや、そんな気配は無い。
何をしているんだ?
私が感じるのは石鹸のような良い匂いと、唇に感じる柔らかい感触…。
唇?
私はハッとし目を開く。
そこには私を殺すはずの吸血鬼の顔が目の前にある。
吸血鬼は私に口付けをしている。
「…!!!」
私は驚き、後ろに引き下がる。
「お、お前は…、ななな何をしているんだ!!」
私はクスクスと笑う吸血鬼に指を突き付ける。
「フフフッ。貴女を殺すのは止めたの」
吸血鬼はゆっくりとこちらに歩み寄る。
「な、何を考えている!? 殺すのを止める? …それで何故、く、口付けなど…」
「十六夜咲夜は今夜死んだ」
私の言葉を遮り、吸血鬼は私の目の前にしゃがみ込む。
そして私の顎をその細い指で持ち上げる。
「今日から貴女は私の従者、十六夜咲夜。 私に尽くし、従える者」
吸血鬼は笑顔でなく真顔だ。
紅く美しい夜空を背景に浮かぶ幼さの残る顔は、とても美しく、可愛らしかった。
「お、お前は何を言って…」
「お前じゃない。これからはお嬢様と呼ぶのよ」
「お、お嬢様?」
有無を言わさず私を従者にするつもりらしい。
「これは私が決めたこと。貴女の運命は私が握った。貴女はこれから生涯、その命が続く限り私に従い、尽くすの」
吸血鬼は立ち上がると手を私に伸ばす。
「さぁ、紅魔館のメイド十六夜咲夜。館に帰るわよ」
笑顔でそう言う。
なんなんだこの吸血鬼は?
ただの我が儘ではないか。
私は死ぬのではないのか?
これもまた、彼女の運命を操る能力によって決められたものなのか?
何より驚いたのは、私がそれを無意識に受け入れていたことだ。
私はお嬢様の手を借りて立ち上がると、彼女に引かれるがままに紅魔館へと進んだ。
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