ほの暗い昼間

4/5
前へ
/10ページ
次へ
ママ、可哀想なママ。 父親によく似たあたしを見る度思い出してる。 あたしの奥に愛した男を見てる。 その目が悲しみに揺らぐことに あたし気づいている。 「…パパ?」 まだ幼かったあたし。 トイレに突っ伏して首から血を流す父親を見つけて 「イタイの?パパ。大丈夫?」 血で手を赤く染めながら背中をさすっていた。 後から帰ってきたママが叫び声をあげて その後はすごくバタバタしていてよく覚えていないけど。 「見て、あの煙はパパよ。今ね、天国にのぼってる途中なの。ちゃんとのぼっていけるようにお祈りしようね」 炎は父親の体を包み込んで、黒い煙に変えていった。 「お祈りする。パパ、頑張ってね。」 あたしの肩に置かれたママの手が震えていたのをよく覚えている。 ママ、可哀想なママ。 あたしを見る度思い出すの ずっとずっと 愛して、とらわれたまま ママがそれを望んでいるのだとしても。 ママ、あたしはあたし。 あたしをそんな目で見ないで。 結局は逃げ出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加