おかえり

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「旦那さん、これを木河殿へ渡してきます」 「あぁ頼んだよ」 旦那は算盤の珠を弾いて帳簿に記入していた手を止め稔麿を見送る 此処に来て早一月半。仕事にも慣れてきた。反物屋の給金は良くとも金はまだあまり貯まってはない 「まだ暑いなぁ」 文月の今はまだ暑い。長州でこれだけ暑いのだから山に囲まれた京はどれだけ暑いことか これから反物を届ける木河は稔麿が嫌いな相手だ。木河自身、情に熱い男だが問題は娘 「稔麿!!」 「………また君?しつこい女は嫌われるって知ってる?」 鬱陶しいとわざと顔に書いてあるのに木河の娘、優はそれすら気付いてない 「何言ってるの。いい加減認めなさいよわたくしが好きだって」 甘い環境で育った優は稔麿がどんなに恋仲になることを拒否しても照れ隠しだと言っている 「言ったよね。京に僕の奥さんと子供がいるって。そもそも、奥さん以外の女に興味ない」 「んもう!じれったいわね!父上も母上も稔麿なら良いって言ってくれてるのよ?」 「話し聞いてないんだ。耳遠いんだねご愁傷様」 この高飛車な性格のおかげで未だに異性と婚姻を結んだことがないのだ 容姿は中の上と言った所か。自分が誰よりも美しいと思っていて稔麿曰くかなり痛い女 「木河殿呼んでよ。いつまで経っても反物渡せれないじゃないか」 「わたくしと夫婦になるなら呼ぶわ」 「すみませーん反物届けに来ましたぁ」 「ちょっとォォォオ!!!?」 優を無視して玄関の敷居を跨ぐ 「わたくしを無視するなんでどういうつもりよ!?」 「耳の遠い君に構ってる暇ないの」 「は…!?でも残念だったわね!家にはわたくし一人よ!」 「じゃあ、はい。渡しといて」
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