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今無性に俊輔の声が聞きたくなる。あれだけ音羽に色気がない、ないと言っていて晋作が逆を問うと違う返事が返ってきたのだ
「好みを押し付けるのもどうかだけど、栄太郎場合論外。」
「男として終わってる」
「人間としてではないか」
「栄太郎らしいですがそれでは音羽さんが可哀相ですよ」
他三名に言われてもただ腹が立つだけで済むが松陰に窘められて栄太郎はシュンとする
「……女なんて皆同じです。自分の思い通りにならなかったら泣くし、怒る。面倒臭い生き物です」
「私が見るからに音羽さんは違うと思いますが……栄太郎にも彼女の事がすぐに分かりますよ」
半日も共に過ごしてないのに松陰は音羽の事を見抜いた。松陰は夜の講義に備えて準備してくると言って道場から出て行った
「先生の言う通りだよ。音羽ちゃんのこと何も知らないのに決め付けちゃ」
そのあと始終、栄太郎はむくれて解散となる
松陰に挨拶を済ました後にも同じようなことを言われ最終的に呆れてしまった
(何が良くてあんな子を先生は気にするんだろ?二刀流の女子って確かに珍しいけど)
だから少しは音羽に興味を持った。自分だけじゃない。きっと俊輔も晋作たちも彼女に興味を持っている
鼻の頭に桃色の花びらが掠めた
「桜……」
前に松陰が誰かに向けたわけじゃない独り言を言っていた
『桜は武士みたいです』
潔く風に遊ばれて散り逝くその姿はまさに武士。栄太郎はその武士になりたかった
『ですが武士は桜みたいに散ってはなりません』
『先生?』
松陰はポフリと栄太郎の柔らかな髪を撫でて他の塾生に呼ばれ松陰の温もりを感じながら栄太郎一人が残る
『桜みたいに散るな…か…』
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