464人が本棚に入れています
本棚に追加
松陰らしいと言ったら松陰らしい。武士に死ぬな、と言うのは松陰だけだ
「ん……?音羽?」
少し前のことを思い出していたら桜の木の下で背伸びをしている音羽を見付け、遠くから見る。隣には俊輔がいない
「あーもぅ!!届かん!!」
(ぶはっ!)
あと少しなのに桜の枝に手が届かず、苛立った様子の音羽。そんな彼女に栄太郎は声を押し殺して笑う
「こうなったら…!」
右足を半歩下げて腰に差していた刀で桜の枝を切り落とす
「取れた!」
顔を綻ばせ枝を大事そうに持つ。影からそれを見ていた栄太郎は音羽に近付く
「刀はそうやって使うもんじゃないでしょ」
「吉田さん」
「そもそも刀は男が持つもの。女の君には必要ない」
目を瞬く音羽を無視して栄太郎は口を動かす
「鍛治屋の娘だからって、君は武士になれないよ」
栄太郎は武士の中で一番端くれな足軽。故に腰に刀を差すことが許されない
黙って聞いていた音羽が不思議そうに口を開いた
「うちは、女だてらにお侍さんになろうやなんて考えてまへん」
「じゃあなんで?」
「吉田さんは大切な人います?うちは大切な人を守りたいから。守るに男も女も関係あらへん」
大切な人と言われてまず頭に過ぎったのは松陰、次に俊輔たちや家族だった
最初のコメントを投稿しよう!