ただいま

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「さぁさぁ、中に入って。師弟同士積もる話しもございましょうに」 お久に勧められるままに稔麿は数年ぶりに松陰の本宅に足を踏み入れた ************** 「そうですか。そんなことが…」 稔麿は自分の身の回りに起こった事を良し悪し無しに全て話した お久は買い出しに出掛けると気を利かして本宅にいるのはこの二人だけ 稔麿はジッと松陰を見る 死に別れする前までとなんら変わりない。変わったとあえて上げるなら髪が伸びた所だろうか うなじの所で緩く結われて開けた戸から風に遊ばれる 弟子たちが血に塗れるのはある程度予想はしていた松陰 心を痛まない筈がないが尤も、音羽まで血塗れの道を歩むとは予想外だ 「私は、間違えてたのですかね……」 「間違えてなんかないです!僕たちは先生の教えのまま実行しました」 気落ちする松陰を稔麿は懸命に励ます。稔麿じゃなくたって晋作や俊輔たちも同じことをいうだろう 「僕たちは僕たちなりに考えてこの道を歩んだのです。先生が気に病むことは一切ありません」 「そうですね……後悔ありませんか栄太郎?」 稔麿が何も言わずに目を細めて微笑んだのに松陰は胸を撫で下ろした 口にしなくても稔麿が後悔のない道を歩んだのを分かったんだろう 「お久が戻るまでどうしましょうか」 「……僕、どうしてお久さんを娶ったのか知りたいのですけど」
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