ただいま

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綺麗で気の利く女性だから異論は唱えない。が、あれだけ女っ気無さ過ぎて今更嫁を娶ったのがどうも腑に落ちない 「彼女は私を慕い、私も彼女を慕った。それだけですよ」 それは今まで見たことがない松陰のはにかんだ表情【かお】に毒気を抜かれた気分になった その日の夕餉は稔麿、松陰、お久の三人で摂る なかなかの美味でも音羽が作ったのと違うと稔麿は思う 美味しいとお久が作った料理を松陰が褒めてお久は嬉しそう笑う。会話はあるのに静かだ 生前は俊輔の皿からおかずを取り、九一も参加していた騒がしいだけの食事が懐かしい 「口に合ったかしら?旦那様の好みの味付けについしちゃったんだけど」 「美味しいですよ」 とても、とは口に出来ない。稔麿にとって“とても美味しい料理”は音羽が作ったものだけしか感じないのだから 「おかわりあるから沢山食べてね?」 詳しく聞いたところお久は武家の生まれだった しかし、身分の低い芸人を家に招き入れて親戚たちが彼女を野山獄に入れた そこで暫くしてから松陰と出逢い、真面目な松陰に惹かれたのだ 「栄太郎くんのような優秀な生徒が居られて羨ましいですわ」 「栄太郎は私の誇りですよ」
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