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稔麿が家に帰れたのはもう日にちが変わった頃だった
せっかく松陰に会えたのだ。生前に聞けなかったことを聞いていたらこの時間になっていた
帰って目に入ったのは血が着いた小袖が入る風呂敷。血の着いたまま食事は出来ないから稔麿は松陰の着流しを借りていたのだ
「血、落とさなきゃ」
しかし、色々と疲れが溜まっていて瞼が重い
音羽は血はなかなか落ちにくいとよく愚痴っていたから今日中には落とさなければと意気込むも無駄だ
「にしても先生もお久さんもビックリだ…」
ゴロンと横になったらすぐに夢へ旅立った
暗い空間の中で啜り泣く音羽を稔麿は上からそれを見ていた
稔麿の胸がギュッと苦しくなりすぐに泣き止ませたいのにどう足掻いても彼女へ近付けれない
声を最大にして彼女の名を呼び手を伸ばした
「音羽!!」
パチッと目を開けて手を伸ばして掴んだのはただの無機質な空気
「あ……れ……?」
目に写ったのは暗い空間ではなく汚い天井と筋張った自身の手
ムクッと上半身を起こして辺りを見渡しても景色は変わらない。夢だと認識していたのに落胆した
「音羽……」
今すぐにでも京に行きたい
しかし、行くには金がいる。無一文の稔麿はふと自分の髪に目がいった
(髪って売れたよね確か……)
艶やかで長い稔麿の髪が音羽は好きだと言っていた。背に腹は代えられない
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