呪われました。

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「いっちゃんは神様にお願い事するとき、何をする?」 「え? うーん、神社に行ったら柏手打って、お賽銭投げたりするけど……」 「そう。それ」  俺の答えのどこかに正解があったのか、ジュヒはウインクしてみせる。不覚にもその仕種にドキッとしてしまった俺は、彼女から目を逸らしてチラシへと視線を落とす。それを俺が話の続きを促したと判断したのか、ジュヒは再びチラシに何かを書き込み始めた。 「神様にお願い事をするには、お賽銭に限らず、何かしらのお供え物が必要よね」 「そうだな」 「でも貧しいとお供え物ができない。だから――」 「――命、ってわけか」 「そういうこと」  成程。今まで「人を呪わば穴二つ」という言葉は、「人を呪うと自分も同じ目に遭う」程度の意味だと思っていたが、正しくは「人を呪うには自分の命を差し出す覚悟が必要」、ということらしい。  俺が感心していると、ジュヒは今度は何やら難しい顔で腕組みしている。クルクルと表情を変えて、まったく――飽きない奴だ。 「呪神様は、命なんて供物としてはこれ以上ないものを預かる分、その願いは確実に叶えてあげないといけないの。でも一人じゃ到底無理で、呪神様はアルバイトを雇うことにした。それがあたし達、呪う者」 「アルバイトって……」  そんな物騒なアルバイトがあっていいものなのだろうか、と思いながら、俺は苦笑いを浮かべる。ジュヒはといえば、またチラシに何か書き始めた。呪神から線を3本引っ張って丸を描き、「アルバイト」などと書いている。そしてその丸から更に1本ずつ線を引っ張り、また丸を描く。それが何を示すのか、俺には大体察しがついていた。 「で、お前達はそれぞれの雇い主のもとで働く、ってわけか」 「そ☆ いっちゃんは理解が早くて助かるわー♪」  満面の笑みを浮かべたジュヒは、右手で俺の頭を優しく撫でる。なんとなく恥ずかしくて顔を赤くしながら「やめろ!」と言うと、もっとからかいたくなったのか、ジュヒは両手でワシャワシャと俺の頭を撫で回し始めた。結果―― 「わ」  ジュヒが俺に覆いかぶさる形で、俺達はカーペット敷の床に倒れ込んだ。ジュヒは忙しく動かしていた手を止め、ジッと俺を見つめる。耳にかけていた長い髪が落ちて、俺の顔にかかった。
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