呪われました。

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 動けない。というより、息さえ上手く出来なかった。ジュヒは何を考えているのか、俺にのしかかったままジッと目を見つめ返してくる。蠱惑的に揺れる黒い瞳。ふっくらした頬。薄く開いたピンク色の唇。見惚れる俺に、ジュヒの顔がゆっくり近付いてきて――唇が、そっと、触れた。 「――おでこ?」 「何よ、不満?」 「いや、別に……」  額に置き去りにされたジュヒの温もりと柔らかさを、手で触れて確かめる。不満かと問われれば勿論不満なのだが、それ以上を求めるとまた鉄拳の餌食になりそうなので、言わないでおこう。  さてと、と呟いてジュヒは起き上がり、時計を見る。時刻は既に1時を過ぎていた。 「さて! じゃあもう夜も遅いし、あたし先に寝るね! おやすみ~」 「あ、ホントだ。おやすみ……っておい! ちょっと待て!!」  いそいそと俺のベッドに潜り込もうとするジュヒを制止すると、少女は何よ、とでも言うかのような視線を投げ掛けてくる。いやいや、何じゃないだろう―― 「何俺のベッドに寝ようとしてんだ!!」 「なんでって、あたし今日からいっちゃんと一緒に暮らすんだよ? 女の子を床で寝かせようってわけ? ヒドい男ー。そんなだから浮気されるんだよ」 「それとこれとは関係ない!! てか一緒に暮らす?! 聞いてないぞそんなこと!!」 「今初めて言ったもん。あたしは楓ちゃんとの契約が切れるまでは、いっちゃんちに厄介になるからね。よろしく☆ 嬉しいでしょ? こんな美少女と一緒に暮らせて」  また勝手なことばかり言いやがって~……!!でも一緒に暮らすってことは…… 「お帰りいっちゃん。ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も……♪」 「お風呂でお前を食べる!!!」 「うるさいなぁ!! 眠れないでしょ!!」  パカーン!!と後頭部に何かがクリーンヒットする。痛みに涙目で見れば、それはベッドサイドに置いてあった目覚まし時計だった。ジュヒは既に布団を頭まで被っている。俺はこれから始まる共同生活に多くの不安と少しの期待を抱きながら、こたつに入って寝ることにしたのだった。
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